GitHubが「Copilot Agent Mode」を発表――AIによるコーディングエージェントが加速する新時代へ

AIエージェント・ワークフロー

執筆:Sean Michael Kerner (翻訳・編集:AINOW編集部)
投稿日:2025年2月6日


はじめに

マイクロソフト傘下のGitHubが、ついに「Agentic AI」によるコーディング支援の新機能「GitHub Copilot Agent Mode」を発表しました。Agentic AIは、現在あらゆる業界で注目を集めており、ソフトウェア開発やコード作成の領域でも活発な動きが見られます。今回のGitHubの新機能は、ユーザーの“ちょっとしたプロンプト”から、より高度なコード生成や自動的なエラー修正を行えるように進化した点が大きな特徴です。

さらに、GitHubは「Project Padawan(プロジェクト・パダワン)」という完全自律型のソフトウェアエンジニアリングエージェントのプレビューも示唆しています。これは、開発タスクを人手をほとんど介さずに自動的に処理する未来像を提示するものです。現在急拡大している「Agentic AI」が、どのように開発現場へ浸透し、生産性を変革していくのか――最新情報を総まとめでお伝えします。


「Agentic AI」とは

「Agentic AI(エージェンティックAI)」とは、AIがあたかも“エージェント(代理人)”として、一定の目的達成に向けて自律的に行動し、問題解決を主導するAIの形態を指します。従来のコード支援型AIが“提案や補完”レベルにとどまっていたのに対し、Agentic AIは自分自身でコードを生成、エラー修正、さらには追加機能の提案などを“主体的に”行う点が大きな違いです。

とりわけアプリケーション開発やコーディングの世界で、このAgentic AIの需要と期待が急拡大しています。かつては「単にコードを補完してくれるアシスタント」だったものが、いまや「プロジェクト全体を導いてくれる準メンバー」のような役割を果たす――そんな変化が進んでいるのです。

GitHub Copilot Agent Modeとは

シンプルなプロンプトから高度なコード生成へ

Agentic AIの波が押し寄せる中、GitHubは独自のAIコーディング支援サービス「GitHub Copilot」にAgent Modeを追加し、一歩先へ踏み出しました。Agent Modeの登場により、開発者はこれまで以上に少ない操作で、より大きな成果物を得られるようになります。

  1. 単純な指示で複数ファイルをまたぐコードを生成
    従来のGitHub Copilotも自然言語によるコード生成機能を備えていましたが、Agent Modeでは「複数のファイルや組織内のコードベース全体をまたいでリファクタリングやデプロイまで一括して行う」といった操作が、よりシームレスに実行できます。
  2. エラー修正の自動化(セルフヒーリング機能)
    Agent Modeは、出力したコードにエラーが生じた場合、問題点を解析し、開発者の手を煩わせることなく自動的に修正を試みます。これにより、開発者のデバッグ工数は大幅に削減される可能性があります。
  3. 新しいLLMへの対応
    もともとGitHub CopilotはOpenAIのCodexを利用していましたが、2024年10月からAnthropic社のClaudeやGoogleのGemini 1.5、OpenAIのGPT4oなど多様なLLMを選択できるようになりました。今回のAgent Modeの登場と同時に、Googleの「Gemini 2.0 Flash」やOpenAIの「o3-mini」もサポート対象に加わり、さらに選択肢が広がっています。

GitHubによる「Peer Programming」概念の提案

当初、GitHub Copilotは「ペアプログラミング」の概念をベースに、開発者とAIが二人三脚でコードを書くスタイルを想定していました。しかし今後は、エージェントとしてのAIを「ペア(二人)」というより「ピア(仲間や同僚)」に近い存在――いわゆる“Peer Programming”として捉え始めています。

GitHub CEOのトーマス・ドームケ氏は、

「近い将来、開発者のチームは“知的で高度なAIエージェントのチーム”と協働するようになるだろう。まるで同僚として日常的にプルリクやリファクタリングを助けてくれる存在だ。」
とコメントしています。これは、AIを開発者のパートナーのように組み込むことで、従来の開発プロセスを大きく効率化できるという期待感を示す発言と言えます。

Agent Modeの技術的仕組み

1. タスクの理解と計画立案

新しいAgent Modeは、ユーザーが入力したプロンプトに対して単にコードを出力するだけではなく、タスクの要件全体を分析し、さらに暗黙的に必要な前処理・後処理を推測します。これは、「主タスクを円滑に進めるために、何が必要なのか」をAIが自律的に理解するという画期的な進化です。

例:ユーザーが「ウェブアプリのフロントエンドとバックエンドを構築し、データベースを設定してデプロイするコードを作って」と指示した場合、Agent Modeは「バックエンドに必要なパッケージのインストール」「テスト環境の設定」「運用環境のファイル構成」など、明示されない要件も推測して計画に組み込みます。

2. イテレーション(反復)実行

Agent Modeは出力したコードを自ら検証し、エラーや不備があればコードを自動的に修正します。このプロセスは連鎖的に繰り返され、すべてのサブタスクが完了するまで継続される仕組みです。

3. セルフヒーリング(自動エラー修正)機能

GitHubによれば、Agent Modeは実行時エラーを検知すると、その原因を解析し、修正版を再度出力することで問題解決を試みます。必要があれば開発者にターミナル操作の提案や依存パッケージのインストールを促すコマンドも示し、場合によっては自動で実行することも可能です。

Project Padawan(プロジェクト・パダワン)とは

フルオートメーションへの道

Agent Modeは高度化しているとはいえ、まだ開発者の監視や部分的な介入が必要な半自律的なシステムです。一方、GitHubが今回プレビューとして示唆した「Project Padawan」は、完全自律型のソフトウェアエンジニアリングエージェントを目指しています。名前の由来は『スター・ウォーズ』シリーズの“ジェダイ見習い”の「パダワン」。GitHub Copilotをプロジェクトに“新しいエンジニア”として正式参加させるイメージを与えています。

Project Padawanでは、たとえばGitHub上のイシュー(課題)をAIエージェントに割り当てると、必要なリポジトリの作成からコードの実装、テスト、レビューアサインまで一気通貫で対応することを想定しています。最終的には、人間のレビューを通して合否が下されるにしても、作業フロー全体をAIに任せられる点が革新的といえるでしょう。

「ある意味、Copilotをリポジトリのコントリビューターとして正式にオンボーディングするようなものだ。」
(トーマス・ドームケ氏)


他のAIコーディングエージェントとの比較

GitHubはやや“後発”のポジションか?

Agentic AIを用いた自動コーディングツールは、近年スタートアップ中心に急速に広まっています。CursorReplitBoltLovableなど、多数のサービスが2023年頃から相次いで登場し、既に独自のユーザーベースを築きつつあります。

  • Cursor:ダウンロードが必要だが、プロ向けの高機能を備える
  • Replit:クラウド上で完結するため、初心者でも扱いやすい。最近はモバイルアプリ版が登場
  • Bolt:ウェブベースで操作が簡単。学習コストが低い

このように、すでにAIエージェントとして完成度の高い製品も存在するため、一見するとGitHubは遅れをとっているようにも映ります。

GitHubの強み:巨大な開発者エコシステム

しかし、GitHubは世界最大級のコードホスティングプラットフォームを運営しており、1.5億人以上の開発者と、世界中の90%以上のFortune 100企業が利用しています。
加えて「GitHub Copilot」は既に7万7,000以上の企業組織で導入されており、既存の**“顧客接点の強さ”**は他サービスの追随を許さない大きなアドバンテージです。

VS Codeとの統合

現在プレビュー段階のAgent Modeは、Visual Studio Code(VS Code)のInsiders版でのみ試せる機能となっています。これは完全なウェブベースではないため、ReplitやBoltのようにブラウザだけで簡単に始められる利便性はまだありません。しかし一方で、VS Codeは世界的にトップクラスに普及しているIDEであり、多くのプロフェッショナル開発者が利用しています。すでにVS CodeとGitHub Copilotを愛用している開発者にとって、Agent Modeは“待望のアップデート”として迎えられる可能性が高いでしょう。

GitHub Copilot Agent Modeの今後

今回のAgent Modeによって、GitHub Copilotは単なる補助的ツールではなく、「開発チームに属する**ピア(仲間)**として機能するAI」へとシフトを明確化しました。リファクタリングから自動デバッグ、さらにはターミナル操作提案まで行うエージェントは、開発プロセスを大きく変えることが期待されます。

ただし、まだプレビュー版である以上、開発者のフィードバック収集安定度の向上が必要です。プライシングや正式リリース時期については現時点で未定ですが、GitHubが積極的にアップデートを続けることは間違いありません。長年続いた「人間がコードを書く」という常識から、「AIと協働し、場合によっては自律的にコードが書かれる時代」への変革が、ますます進んでいくでしょう。

まとめ:Agentic AIによる開発の未来

  • Agentic AIはさまざまな分野に浸透しており、コーディング支援ツールの領域でも急速に進化している。
  • GitHub Copilot Agent Modeは、エラー修正やコードの生成・リファクタリングなどを自動反復し、より少ない指示で大きな成果物を得られるようにする機能だ。
  • Project Padawanは完全自動化を念頭にしたプレビュー構想で、人間のエンジニアに近い立ち位置で開発タスクをこなせるエージェントとして期待されている。
  • ReplitやCursorなど他社の先行ツールも存在するが、GitHubの強みである広大なユーザーベースVS Codeとの統合は強力な優位性をもたらすだろう。

AIが「補助的な存在」から「能動的パートナー」へと進化する流れは、今後さらに加速していくと考えられます。ソフトウェア開発だけでなく、DX(デジタルトランスフォーメーション)が必要なあらゆる企業や組織にとって、Agentic AI活用は避けて通れない大きなトレンドとなるでしょう。

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(本記事は元記事「GitHub Copilot previews agent mode as market for agentic AI coding tools accelerates」(Sean Michael Kerner 著)を翻訳・再構成したものです。)

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